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ボクシングについて②

前回の続き…。
「べた足」の状態から常に後ろ足の踵を上げて、フットワークを使ったディフェンスを学んだ自分は今までのスタイルから、大きく変わった。がしかし、ボクシングを学ぶ中で、もっと身につけたいものがあったのだ。それはパンチ力。自慢するわけではないが、スピードも切れもあった。コンマ何秒のうちに数発の連打を繰り出すこともできた。それでも「もっと…」という欲求があったのである。重くて、強いパンチを自分の武器にしたいと。というのは、そのジム、選手の大半がハードパンチャーだったのである。「KОできてこそ、プロボクサー」という会長の信条のもと、選手たちはパンチ力に磨きをかける練習をしていたのだ。実際、スパーでそのパンチをまともにくらうと、頭がい骨が割れるんじゃないかというぐらいの衝撃力があった。

余談になるが、ボクサーの強さはこうしたパンチ力やスピードだけでなく、「当て勘」に優れているところだ。どんなに強くて速いパンチがあっても、当たらなければ、相手は倒せない。だからこそ、当てるための練習をする。そこにフットワークが活きてくるのだ。それをリングではなく、路上の実戦で使ったら、どうなるか。
数十年も前の話だから、時効として書いておくが、ボクサーは強い。ある日、八回戦の選手と街中を歩いている時、ガラの悪い輩、数名にからまれたことがあった。「タイマンで勝負つけようや」と言ったら、ひときわ、がたいのいい奴がその八回戦の男と戦うことになった。結果はというと、相手の大ぶりのパンチは一切、当たらない。それに対して、ボクサーの連打がまともに叩き込まれた。相手は見事にノックアウトである。通常、路上マッチでは言い合いから胸ぐらを取るなどの行為に展開され、そこから殴り合いになる。その殴り合いになった場合、ボクサー相手の戦いは一方的になることをこの目で何度も見たことがある。ボクサー相手に殴り合いは愚の骨頂である。

話がずいぶん、それてしまったのでここで戻す。ディフェンスをある程度、体得した自分は今度は「パンチ力を上げたい」と会長に申し出た。今、思えば本当に親切な会長だったと思うのだが、その申し出も快諾してくれた。そこで行われた練習法はこうだ。大きなタイヤの上にオーソドックス(自分は右利き)スタイルで立つ。そして、前後に初めはゆっくりと重心移動をする。前へ、後ろへ。そして、前に重心を移した際に左のストレートなり、右のストレートを放つのだ。最初はどうしてもパンチを打つ際に肩が先行してしまうから、あくまでも重心が前へ行った瞬間にパンチを出す。これができるようになったら、会長の持つパンチングミットにパンチを打つのだ。これは簡単なようで意外に難しかった。当てようとする意識が重心移動の前にパンチを出してしまうからだ。そのあたりをチェックしてもらいながら、これもまた、毎日のように何度も繰り返し練習をした。選手でもないのに、選手並みの練習量である。それでも、強いパンチ力を身につけたかった自分はひたすらにその練習をした。その結果…ある日を境に会長の構えるパンチングミットに確かな手応えのあるパンチを打てるようになったのである。

同時に会長からこうも言われた。「おまえはストレート系のタイプだから、相手の左に合わせるライトクロスを打てるようにしろ」と。
つまり、クロスカウンターである。タイヤ練習でそれなりに強いパンチを打てるようになってからは、実際のスパーでそれを使えるよう、意識した。しかし、いきなりそれができるわけではない。何十回も繰り返しやるうちに、そこそこの確立で重心の入ったライトクロスを当てられるようになったのである。これがきれいに決まれば、一発で相手を倒せるようになった。「俺のパンチは強い!」その自信は攻撃力へとつながる。格闘技でも武道でも、自分の得意技が一つでもあれば、そこから派生するバリエーションはいくらでもあるのだ。だからこそ、得意技を体得するのは練習するうえで絶対必要条件なのである。

ここでまた、話はずれるようだが、重くて強いパンチを重視し、養成するボクシングジムはいくらでもある。その打ち方やスタイルも独自のものがある。
例えば、あるジムではフックを打つ際、自分の身体を固めるようにして、胸を張るようにしてガツーンと打つ。これは効く。むろん、打つ瞬間にそれをするのだ。自分のキック時代の教え子が東京のあるボクシングジムで学んだというその打ち方は確かに威力があった。体得するには難易度の高い打ち方だが、その選手は試合でもそれを繰り出し、まさにKОの山を重ねた。そしてこの打ち方は、重量級のボクサーが試合後半に疲れてくると、同じようなパンチになるのである。
古い話で恐縮だが、「キンシャサの奇跡」と言われた、モハメッドアリとジョージフォアマンの試合もそうだった。フォアマンの猛攻をただ、ひたすらにブロックのみで防御していたアリ。倒そうと打ち続けるフォアマンの消耗度は試合半ばあたりから見てとれた。時に腕力に任せて打つパンチもあったが、確かフック系のパンチを打つ際に身体ごと体当たりするかのようなパンチも放っていた。ヘビー級のボクサーのあんなパンチをまともにくらったら、どんなに打たれ強い選手でも一撃で昏倒するだろう。そうならなかったアリの徹底したディフェンスと、瞬時の隙を見抜いてKОするファイトも凄かった印象が今も脳裏に浮かんでくる。

それとは別にあるジムでは打った瞬間に逆の骨盤を締めるような指導も行われていた。例えば、オーソドックスの選手がワンツーを打つ場合だと、右ストレートを打つ時は先にも述べた重心移動、下半身の回転を利かすのだが、腰を回転させる際、左の腰がそのまま流れると、パンチの威力が落ちる。だから、右を打った瞬間に左へ回転させた左の股関節を瞬時に締めるのである。これをすると、衝撃力は逃げないから、やはり、強いパンチが打てるようになる。

あるいはまた、「強いパンチが打てなくても、倒せるパンチが打てればいい」と、こんな指導をするジムもある。それはストレートでもフックでも当たる瞬間にナックルを内側に半回転させるようにして相手の顎を斜めに打ち抜くのだ。どちらかと言うと、ショートの間合いで使われる打ち方だが、これもきれいに決まれば、一発KOである。

かくのごとく、パンチの打撃戦に特化したボクシングはオフェンス面でもディフェンス面でもこれほど高度な技術は他に類を見ない。合気系柔術で突いてきた相手の手を取ってかける型稽古があるが、突いてそのまま止めるようなパンチなら、ある程度の力量を持った人間なら、誰もができる。そんな打ち方をしようものなら、総合格闘技系の選手と戦ったら、格好の餌食である。しかし、ボクサーの引手の速いジャブには、型稽古でやるような技は断じて、通用しない。これは自分も一度、経験しているのだが、ある合気系武術の師範から「技を見せるから、左のパンチを打ってきて」と言われたことがある。この時も引手の速いジャブを打ったら、技は一切かからなかった。

ちなみに「引手が速かったら、パンチは軽くなるんじゃないの?」という声もあるだろう。答えはnoだ。ボクシングを知らない人間がまともにジャブをくらえば、倒れるぐらいの衝撃はある。格闘技をやっている者でも、まともにくらえば顎が上がる。その後に続く連打が打ち込まれたら、これもKОである。パンチという打撃の専門家であるボクシングはかくのごとく、並外れた強さがあるのである。

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