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合気の章③

合気

前回の続き。炭粉氏の合気探求に強い関心を抱いたのは、炭粉氏自身がフルコンタクト空手のツワモノであるからだ。これが合気道をやっている人の書いた本なら、読まなかっただろう。ちなみに、炭粉氏が合気を実体験したのは、冠光寺流の保江師との出会いからである。合気系柔術の基本技の代表に「合気上げ」というものがある。お互いに座った状態で片方が相手の両手首をしっかり、押さえる。仕手側はそれを力ではなく、上げるのだが、ここで炭粉氏は驚愕の体験をした。保江師の両手首をガッシリと握り込み、押さえ込んだ自分が何と、立ち上がってしまったのである。それは何度やっても同じ結果になった。挙句に用意してきた割り箸で同様のことができるかと臨んだところ、これもまた、いとも簡単に立ち上がされてしまったのである。

おそらく、炭粉氏の頭はその時、クエスチョンマークで満載になっていたことであろう。さらに、こんな体験もした。前屈立ちでしっかり腰を据えて盤石の構えで立つ。そして、前方に自分の両掌をかざしたところ…保江師はごく軽いパンチを打ってきた。保江師は打撃のプロでもなんでもない。にもかかわらず、そのパンチを受けた途端、炭粉氏は吹っ飛ばされて、後方の畳ら叩きつけられたのである。炭粉氏の驚愕の合気体験はさらに続く。

後日、再び保江師と会った時のことである。「合気上げも突き倒しも凄かった。しかし、それが実戦に通用するのか」という思いでいた炭粉氏に何と、保江師の方からスパーリングを申し込んできたのだ。その時、炭粉氏には一瞬、ためらいがあったことだろう。相手は打撃のプロでもなんでもない。ことさら、体格がいいわけでもない。
しかし、「先生から言いだされたことなら、全力で行こう」と対峙することにした。その時はまだ、懐疑的だったのである。空手の威力を知らずにそう言うのなら、ローキック一発で決めてやろうと思ったのだ。ローキックは打撃の中では地味な技だが、素人がそれをまともにくらえば、本当に一発の蹴りで倒れる。顔面を狙うのはいくらなんでもという思いが炭粉氏にあったのであろう。だから、ダメージはあっても悲惨な結果にならないようにと、ローキックを放ったのだ。
ところがしかし、狙った保江師の姿が一瞬、炭粉氏の視界から消えた。あっと思った瞬間、保江師は炭粉氏の超近間合いの距離に顕れるいなや、右の掌底打ちが脇腹に当てられた。その途端、炭粉氏は弧を描くかのように吹っ飛ばされたのだ。「これはどうしたことだ!?」と炭粉氏は気を持ち直して、再び、攻撃を仕掛けた。しかし、またしても凄い勢いで飛ばされる。それを何度も、あらゆる空手の打撃技を本気で放った。突きで、蹴りで。しかし、何をどう試みても同じように投げられ、崩され、潰されてしまったのだ。

「こうなったら…」、保江師を今度こそ、本気で仕留めようと思った炭粉氏はフルスピードの中段蹴りを放った。鍛えに鍛え抜いた蹴り技である。それが当たって、保江師が悶絶しようともかまわない。気力を込めて、蹴ったところ…右の蹴り足の走る方向へと、保江師は歩くかのごとく移動した。そして、またしても掌底打ちで吹っ飛ばされてしまったのだ。万策尽きたとはこのことだろう。なす術がないのである。
その場に座り込んだ炭粉氏に保江師はこう言ったと言う。
「炭粉さんには信じられないかもしれないが、合気は時間流を変容させてしまうのです」と。信じられない話である。これは本にも書いてあるが、その後、何度かお会いした炭粉氏本人からもその事実を聞かされた。そして、「あの衝撃的な体験は今も忘れられない」と(後日、自分も炭粉氏と同様に近い体験をした)。

合氣と空手の融合 氣空術

合気は本当にあるのだ!達人と呼ばれる武術の技は実攻防にも通用するのだ!それが会得できるのなら、自分もぜひ、それを体験したい。心からそう思っていた頃である。何と、昔からの友人から、その保江師の主宰する冠光寺流が地元の名古屋でも月二回、支部稽古として開催されていると聞いた。そしてこうも言ったのだ。
「保江先生が来られない時は畑村先生という方が師範として来ている。その人の技も本物だよ。自ら氣空術という武術を立ち上げているけれど、もともと畑村先生は空手家で、今も自分の道場で指導にあたっているんだ。打撃をやってきたおまえには、畑村先生の指導の方が合っているんじゃないかな」
友人の言う“その人の技も本物”という内容の一つは、軽いパンチ一発で相手が倒されるとも聞かされた(それは炭粉氏の本にも書いてあった)。ならば、これは入門するしかない。決意した自分は冠光寺流・名古屋支部が行われる、ある体育館へと赴いた。すると、そこには、おおよそ武道とはかけ離れた門下生の姿があった。女性が多いのである。さらに、男性も自分が今までいた格闘技や武道の人間と比較すると、「これが武術を学ぶ人たちか?」という方々ばかりである。失礼な言い方になるが、とても武道・武術をやる雰囲気が伝わってこないのである。

謎の空手・氣空術

友人から畑村先生を紹介され、丁重な挨拶をした後に稽古が始まったが、これもまた、「なんだ、これ?」という稽古内容ばかりである。長らく、実戦の場にいた自分にはとてもこれが実攻防に通用する稽古とは思えなかった(女性門下生が多かったのは、保江師が何冊もの著書を書いており、それがスピリチュアル系のものだからだと後で知った)。
こんな訳の分からない稽古よりも、軽いパンチで吹っ飛ばされるという体験をしたい。そう思った自分は稽古の休憩時に畑村先生に「お願いします。パンチを受けたいのですが」と頼んだ。すると、こんなことを言われたのである。
「今、打つと身体が固いから、骨が折れるよ」と。脇腹を打たれるならともかく、骨が折れることなんてないだろうと思った。長年、打撃系格闘技をやってきたから、それなりに打撃耐性はある。筋肉の薄い個所を打たれるならともかく、それ以外の腹筋や大胸筋を打たれる程度なら、耐えられるという自信があったのだ。
そして稽古をしてしばらくのこと、先生が近寄って来られ、「だいぶ、柔らかくなってきたね。今ならいいでしょう」と言う。いいでしょうとは、打ってもいいでしょうということだ。「よ~し、どんな打撃が来るか、楽しみ」と思った。
「じゃ、やりますよ」先生の言葉に、全身に力を入れて身構えた。最近は鍛えていないといっても、腹や胸なら、平気だ。耐えられる。そう思っていたのだが…打たれた瞬間、ソフトボールより大きい鉛球が胸の中をぶち抜けていくような衝撃がきた!「ぐはっ!」と声が出て、吹っ飛ばされた。殴られて倒れたという感覚でもない。拳が貫通するかのような衝撃で、身体ごと吹っ飛ばされたという感じだった。

続 謎の空手・氣空術

「なんだ、これ!?」…今まで様々な打撃を身をもって体験してきた。しかし、先生の突きを受けた感覚はそれらのどれとも違う。先にも書いたように、かなり威力ある打撃でも来ると分かってさえいれば、ある程度は耐えられる。まさに想定外の突きだったのだ。
しかも、軽く打っているというから余計に驚いた。なおかつ、筋力でも身体の回転運動による打ちでもないと言う。ちなみにこの時、打たれた感触は畑村先生の著書、「謎の空手・氣空術(海鳴社出版)に書かれていたような「威力なき技」どころではなかった。一瞬、「アバラ、折れたかな」というぐらいの衝撃だったのである。

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