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月刊フルコンタクトKARATE脳内ホルモンでメンタルを鍛える!自衛隊レンジャーメソッドとは!?

ロープで渡した橋で数十メートルの谷を渡る大畑氏。
ロープで渡した橋で数十メートルの谷を渡る大畑氏。

空手をやっていてもメンタルが弱い人はたくさんいる。軽度なストレスでも「落ち込んでしまう」「やる気が起きない」「あきらめてしまう」など豆腐のようなメンタルの持ち主だ。
今月号は自衛隊最強の松本山岳レンジャーになった大畑慶高(禅道会横浜支部長)を取材。過酷なレンジャー訓練を通して学んだメンタルトレーニング“大畑式レンジャーメソッド”を教えてもらった。

レンジャー養成訓練

――所属していたレンジャー部隊とは?

 陸上自衛官(約14万人)の約8%しかいない、エリート部隊です。
 映画で活躍するアメリカのSWAT、ネイビーシールズの日本版と言った方が分かりやすいかもしれません。
 有事の際、少数精鋭のチームで敵陣深く侵入し、困難な任務を遂行します。
 さらにレンジャーの中でも特別視されるのが「空挺レンジャー」「冬季山岳レンジャー」「アルペンレンジャー」の3つです。私が所属していたのは、長野県松本市にあった第13普通科連隊の山岳レンジャーでした。

――レンジャーになるためには?

 レンジャーの資格を取得するためには、レンジャー養成訓練を受けなければなりません。
 しかし、とても厳しい訓練ですので、それをこなせる体力があるのかを事前に確かめる試験があります。具体的には体力検査8種目・水泳検査3種目・身体能力検査4種目の合計15種目の試験。これに合格し、各部隊から抜擢された隊員がレンジャー養成訓練に参加することが許されるのです。

――どのような訓練が行われるのでしょうか?

 レンジャー養成訓練は陸上自衛隊の中で最も過酷な教育訓練です。
 前期(基礎)・後期(行動)の三ヶ月間で、任務を達成するための技能を叩き込まれます。候補生は極限状態まで追い込まれるので、私が参加した時は半分がリタイアしました。次のレンジャー五訓を読めば、どのような雰囲気で行われるか、感じられるのではないでしょうか?

◎レンジャー五訓

  • 飯は食うものと思うな
  • 道は歩くものと思うな
  • 夜は寝るものと思うな
  • 休みはあるものと思うな
  • 教官・教授は神様と思え

 訓練が始まると、3歩目からは全て駆け足です。
 夜中に寝ていても「ピッ!」と笛が鳴ると候補生は跳び起きて、戦闘服と背嚢を整え、5分以内に集合しなければいけません。こうした非常呼集は一晩で3度行われたこともあり、24時間気が休まることはありませんでした。
 返事も、教官や助教に罵られようが候補生に許され返事は「レンジャー!」のみです。

――前期(基礎的な訓練)とは?

 基本的な訓練は朝5時から始まり、夜24時まで及ぶこともありました。
 早朝の乾布摩擦から始める前期訓練の内容を思い出す限り紹介しましょう。

①腕立て伏せや腹筋・背筋、ライフルを保持した状態でのスクワット、懸垂などの体力向上運動など。

②約30センチのワイヤーの下を匍匐前進。

③ザイル橋(ロープで渡した橋)で数十メートルの谷や建物の間を渡る。

④格闘訓練。

⑤ザイルの結び方やダイナマイトの使い方、火薬の知識の勉強(座学)。

 特筆すべきは、腕立て伏せなどは、回数ではなく時間で行うことです。
 途中で教官から「やり直し!」と命じられると、カウントがリセットされるので、例えば腕立て伏せ1時間、スクワット30分といった単位が当たり前となり、回数に意味がなくなるのです。
 さらに極限状態に追い込むために教官から「やる気がないならやめろ!」などの怒号が飛び交います。弱音など吐こうものなら、さらに「情けない声を出すな!」「税金をムダにするな!」と恐ろしい剣幕で叱咤されます。
 そういえば、官舎には「愚痴と悲鳴を止めよ」という恐ろしい額縁が飾ってありましたね(笑)。
 こうした前期訓練でふるいにかけられ、レンジャーとして任務を遂行できる可能性を持った候補生を残していくのです。私が挑んだ山岳レンジャーは訓練の後期に、三千メートル級の山々を行軍する訓練などが待ち受けているため、哀しい事故が起こらぬよう特に厳しかったように思われます。

困難なミッションを担うレンジャーには働き方改革など関係ない。

――訓練の後期は「想定」と呼ばれる実地訓練だそうですか…。

 後期で行われるのは実際の有事を想定した団体訓練です。想定には第1~7まであり、数字が大きくなるにつれ、日数が増え、訓練内容も「橋を爆破」「人質救出」「敵レーダー施設をゲリラ戦術で無力化」など、難しくなっていきました。
 しかし、前期から後期に入ったことは候補生には伝えられることはありません。実際の戦闘を想定しているためか、いきなり「これより、第1想定を開始する」と言われ、後期訓練が始まるのです。
 私の第1想定は、トラックで山中に連れていかれ、「輸送車両が故障した」という想定でした。そこから、水と食糧を取り上げられ、一日間の山中行軍を行いました。ゲリラ戦は食糧や水が確保できないこともあるため、空腹と脱水症状を最初の段階で体験させるのが主目的でした。

――最後の想定訓練を教えてください。

 一週間山の中を、山中を飲まず食わずで百キロ行軍しました。40キロの背嚢(食料や武器、弾薬など)を背負い、敵に気づかれず、決められた時間に間に合うように進んでいき、敵施設を強襲する想定の訓練でした。途中には足場の悪い傾斜やゴムボートで渡らねばならない池などが待ち受けています。
 体力自慢であった私も徐々に体力を奪われ、一歩足を踏み出すたびに激痛が走るようになりました。しかし、休む間もなく様々な任務を達成しなければなりません。痛みを和らげるために私がとった方法は、水を飲まないことでした。すると脱水症状が起こり、痛みに対する神経が鈍くなるからです。
 二日目からも口を湿らせる程度に水分を摂り、痛みがぶり返さないように努めました。
 食事や休憩中の姿勢は、片ひざ立ちが基本で食事は一日一食。火が使えない事態を想定し、冷えたままの食事を食べました。
 このような生活を7日間続けた結果、最終日の私の体重は15キロ減っていました(元の体重は60キロ)。足りないエネルギーを補うべく、筋肉が分解されないために骨と皮だけになってしまったのです。

道なき道を行くのが当たり前のレンジャー。

――全ての訓練を完遂した隊員たちには「レンジャー徽章」が授与されるわけですが、合否を分けたものは?

 レンジャーになれるか否か。それを分けたのは、体力ではありません。
 気持ちが折れなかった人だけがレンジャーになれたのです。
 正直、私も「キツイな」「早く帰りたい」と何度も思いました。なぜ耐えられたかを分析すると、すり減り続けるマインドを少しでも回復できたからです。
 私はこれを“精神の回復力”と呼んでいます。筋肉の超回復の精神版と言えば、分かってもらえるでしょうか。
 逆にそれが上手くできなかった人は、「もうできません」と弱音を吐いたり、「俺は才能がない」と負の感情に支配されて、去って行きました。
 今になって思うのが、私がレンジャー訓練で学んだのは、技術や体力よりも、人によっては、図太い(?)と感じるようなこの“精神の超回復力”だったと思います。
 事実、レンジャー訓練後、今まで辛いと思っていたことが、「なんでこんなことに…」と思うくらいに思えました。その後に起こった人生のトラブルでも耐性と回復力のお陰で、絶望するようなことは一切なくなりました。

疲弊したマインドを回復する!“精神の超回復力”

――疲弊したマインドを回復させられる“精神の超回復力”はどうすれば身につけられるのでしょうか?

 一番簡単なのが、レンジャー訓練を受けて合格することですが、これはお勧めしません(笑)。
 日常生活でも簡単にできる方法を教えましょう。それが、“大畑式レンジャーメソッド”です。
 私は20年以上、横浜で子供たちを教えていますが、彼らが精神的な強さを身につけ、社会に出た時に挫折せず、幸せな人生を送ってもらうにはどうすればいいのか? そして、私がレンジャーで学んだ“精神の超回復力”を再現し、生徒に伝えられないかと考えていました。
 様々な試行錯誤の結果、辿り着いたのが“大畑式レンジャーメソッド”です。極限状態に何ヶ月も身を置かなくても、似たような効果を得ることができます。

 簡単に論理を説明しましょう。
 喜怒哀楽を左右するのは脳内で分泌されるホルモンです。
 ホルモンとは、生体の内分泌腺で作られる化学物質のことで、簡単に言えば、体の健康を保つため、色々な機能を詳説している、一種の潤滑油です。
 もし脳内全体のホルモンバランスが高いレベルで保たれれば、耐性も生まれ、辛い時にでも前向きな感情を保つことができます。
 そして、ホルモンの分泌を促す脳内訓練が“大畑式レンジャーメソッド”です。
 次の4種類(空手を除けば3種類)を行うだけで、ホルモンバランスが整えられ、結果的にメンタルが最高の状態が保たれて、学業やビジネスでも成功する可能性を高めることができます。

①火の呼吸

火の呼吸

前頭葉を活性化させ、やる気を出す呼吸法です。
アドレナリン(闘争本能を高めるホルモン)が分泌されます。
やり方は次の通り。

  • 左のかかとを肛門に突き刺して、右足を組む。
  • 両手の人差し指と親指をくっつけて輪を作り膝の上に置く。
  • 肩に力が入らないよう両腕を外側に向ける。
  • 背筋を正し、つむじが上から引っ張られるイメージで背筋を伸ばす。
  • 目を軽く閉じて眉間に集中。
  • 呼吸の順序は鼻から吐き、鼻から吸う。息を吐くときはお腹が凹み、吸うときはお腹が膨らむ(腹式丹田呼吸)。
  • 最初はゆっくり、吐いて、吸って、吐いて、吸って、を繰り返し、慣れてきたら、1秒間に2回程度(吐く→吸う)繰り返す。

血流が動いている気がすれば、上手くできている証拠です。
最初は辛いので1~2分程度、慣れたら5分やりましょう。

②空手や筋トレ

通常の空手の稽古でOKです。
精神的・肉体的な元気さを維持するテストステロンというホルモンが分泌されます。

③無双拝

無双拝

一言でいえば、万物への感謝です。
感謝することで脳の中で、オキシトシン(心が安定、やさしい気持ち、幸せな気分になる愛情ホルモン、幸せホルモン。本来は母乳を出すためのホルモン)
気持ちが落ち着くと行動が落ち着きます。
やり方は手を合わせ、心の中で「ありがとう」と唱えるだけです。
対象は、自分を生んでくれた両親や家族、親戚、ご先祖。友だちや仕事で関わる人、人生で関わってきた人達。更には天と地、大自然にも感謝し、最後に自分にも感謝の気持ちを持ちます。

④禅瞑想

禅瞑想

瞑想はセロトニン(精神の安定に影響を与えるホルモン)、ドーパミン(やる気や幸福感を得られるホルモン)が出たり、ストレスホルモンであるコルチゾールが減少します。
笑顔をイメージし、火の呼吸とは対となる穏やかな呼吸法を行いましょう。
姿勢は前出の火の呼吸の姿勢となり、呼吸に注意を向けます。
朝行う時は、吐くのに5秒、吸うのに5秒(交感神経が優位になる)。
夜行う時は、吐くのに8秒、吸うのに4秒(副交感神経が優位になる)。
終わった後に気分が良くなれば成功です。

 私は週6回、朝にメンタルトレーニングを行っています(メニューは一例、毎日変わる)。
 これによって、前日のストレスやイラつき、人間関係、交渉での失敗を毎朝リセットしているのです。
 昨日は火の呼吸、無双拝、縄跳びとストレッチ、基本稽古、移動稽古、補強(腹筋、背筋、懸垂、首の強化…)、瞑想で終了。合計1時間半ほどですね。
 初心者はすべてやる必要はありません。人それぞれですので、「やる気ないから火の呼吸をやろう」など足りないところから始めればいいのです。

――最後にメッセージをお願いします。

「超回復」とはトレーニングなどにより傷ついた筋肉が、十分な休息をとることによって運動前より大きくなることです。
 これは心も同じだと思います。心に適度な負荷を掛けて(※)、筋肉痛にして、前出のメンタルトレーニングを続ければ、メンタルは強くなります。
 今回は誌面の都合上、駆け足で説明しましたが、興味を持った方は11月末に発売する書籍に詳細が書いてあります。ぜひ参考にしてみてください。

※他人のために、わくわくできることを、できる範囲内で継続していく程度。

2020年11月19日発売
「伝説の元レンジャーが教える最強メンタルの鍛え方」

伝説の元レンジャーが教える最強メンタルの鍛え方

禅道会横浜支部長の大畑慶高が本を執筆!

発行:白夜書房
四六判 192ページ
定価 1,500円+税
ISBN 9784864942904

陸上自衛隊レンジャー部隊に所属した経験と、禅道会で積み重ねた鍛錬と大会の実績、そして会社経営者としての見地から、昨日の自分より強くなる方法を解説した本です。

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大畑慶高

1974年生。
15歳から柔道を始め、陸上自衛隊に所属後、20歳で禅道会に入門。
22歳で自衛隊最強の松本山岳レンジャーとなる。
禅道会の内弟子となってから、一日8時間練習し、全日本で計4回優勝。
NPO法人日本武道総合格闘技連盟副理事長。
ワールドジャパン(株)代表取締役社長。
興和警備保障株式会社武道顧問。

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