「その頃は週一で稽古に通っていました。それと並行して、筋トレもやり、それなりに強さを感じていたのですが、入門一か月で審査会があり、一回戦でフルコンタクト空手二段の相手にローキックでやられ、判定で負けてしまいました。約一か月、松葉杖で歩くぐらいのダメージを受けてしまい、『強くなった』と思い込んでいたのに、悔しさが肚の底からわいてきたことを覚えています」
動けない間はビデオを観たり、技術書を読むなどして稽古を再開できることを望んでいたそうだ。そして、稽古再開後は他団体の空手家や元プロボクサーと知り合い、練習会を行った。大人しく、控えめだった斎藤が次の審査会でリベンジすることを考え、人生で初めて本気で一つごとに打ち込んだのである。起業もしたが、そこに至るまでの支援もあった。しかし、空手は全て自分で決めて努力して、結果を出す。
「自分と向き合うという面では最高の武道教育になったと、今も思っています」と、斎藤は感慨深げに語った。ちなみに、禅道会の組み手は初心者から顔面ありのルールで、拳サポーター、スーパーセーフ着用で打撃と投げ、押さえ込みまで行う。
「初めの頃は怪我ばかりでした。ダメージもありましたが、試合四戦目ぐらいから、慣れてくると不思議と怪我も少なくなっていきました。試合は稽古の何倍も得られるものがあるんです。ですから、稽古だけでなく、日常の動きや姿勢にも意識するようになりました。何よりも楽しかったのが、試合の後に道場の仲間と反省会でお酒を飲む時。年齢・社会的立場を離れて、関わりあえるのが良かったです。確か、30歳になる前だったと思います。さらに、ある日、西川先生が小学校四年生ぐらいの男の子を道場に連れてきました。ディヤーナ国際学園の引きこもりの生徒だったのですが、そういう子どもたちに支援をして、社会貢献をしている多角的にリアルな団体であるのだと感動したことを覚えております。」
その後、斎藤は長野県高森町の禅道会総本部に入り、ディヤーナ国際学園のカウンセラーと小沢代表のドライバーなどの仕事をしていた。しかし、代表である小沢の国内外の出張が多く、同行すると月のうち5日間も自室にいる日もないほど多忙で、さらには高森町の学園に帰ってくると、そこ生活している生徒たちと食事会などが行われるため、一般稽古に参加など出来る状況ではない日々が続いていた。
ディヤーナ国際学園では学園生徒たちとの疎通や信頼関係をとても重要にしており、時間があれば食事会と言って生徒を集めては、小沢先生のカウンセリングが行われた。さらには事務作業などもあり、業務多忙で稽古する時間がとれなかったのだ。そんな斎藤にとって、チャンスになったのが小沢が朝に毎日行う自主稽古である。
そこではミーティングも行われたほか、前夜の学園生徒との食事会の際のカウンセリングなどや生徒たちの心の問題について、学ぶ時間でもあった。
「これは一緒に稽古すればきっと、大きな学びになる」と思った斎藤は小沢に「自分も一緒に稽古したい」と申し出た。それを小沢に快諾された彼は、その日から稽古に参加した。しかし、そこで特別な指導が行われるわけではない。小沢の稽古する姿を見てただただ真似しながら、動いていただけである。ちなみに、斎藤はそれまでは自己流の稽古しかしていなかった。その結果、試合では成果を出せなかったのだが、毎月、有段者が集まる強化練習会では、ある先輩から「こいつめっちゃ弱い」と言われ、苦汁を飲んだそうだ。実際に弱いから返す言葉がない。悔しさ紛れにトレーニングの強度を上げなければと思ったものの、彼の稽古は小沢との朝稽古しかなかったのである。その内容は…縄跳びを3分3ラウンド、禅道会で行われている短縮のストレッチ、シャドーを5~10ラウンド。息の上がるようなものではなく、ウォーキング程度の稽古内容だった。正直、「こんなんで本当に強くなれるのか?!」と疑っていそうだ。
「心拍数が上がるように稽古はまったくありませんでした。でも、ゆっくりとしたシャドーではあるものの、小沢先生の技は『これは効くな…』という感じで、感覚はつかめ初めていたのです。ですから、小沢先生の動き、関節の向きや角度、息遣いなどを観ながら、少しでもそれに近づけるように努めていました。その後、30分のウォーキングが行われるのですが、小沢先生の歩きはゆっくりしているにもかかわらず、実際に一緒に歩くと、かなりのハイペースだったのです。自分はいつの間にか遅れてしまい、『これは何かが違う』と思うようになりました。その後に整理シャドーを2〜5ラウンドやって、整理ストレッチ。トータルで二時間ぐらいの内容でした。
斎藤のあまりの未熟さに、小沢は次第に、「斎藤、その動きは違う。俺との違いが判らないか?」という、気づきを与えてくれるようなこともあった。いずれにしても、シンプルな稽古内容であったが、「これぐらいの練習量でも十分に強くなれる」と言う小沢の言葉が斎藤の励みになっていのである。小沢との稽古は前述した基本稽古と補強稽古を1日ごとに繰り返すというシンプルなもので、翌日は補強練習が行われた。腹筋、背筋、腕立て、懸垂、最後に首の筋トレ。それを50~70回の3セット。その稽古が交互に行われる。いずれにしても、とても地道な稽古である。当時を振り返りながら、斎藤はこんなことを語ってくれた。
「ウエイトトレーニングをやらないと、体が大きくならないのではと思っていたのですが、小沢先生はその稽古しかしません。習うより、慣れろ、見て覚えろという感じでしたね。しかし、間近で見て、実際に蹴られると、その威力に驚愕したものです。その後、中国武術の身体操作の一つであるスワイショウや呼吸法などもやるようになりました。呼吸法はサイバーヨガの辻先生からヨガの呼吸法を教えていただき、その理論や方法を学びました。今もそのプログラムを自分に課しています。以上の稽古を小沢先生と一緒にやる毎日でしたが、仕事が滞るようになり、稽古している場合ではなくなってしまいました。そこで、自分なりに工夫して稽古を短縮したのです。呼吸法をして、縄跳びができる時はやって、その後にストレッチをしてシャドー、ウォーキング。トータル45分ぐらいのコンパクトな内容です。しかし、小沢先生の稽古の骨格としていた丹田を中心とした稽古法であったため、時間を短縮しても充分に大会での実績を上げられるようになりました」
斎藤の実績は以下の通り。
2012 全日本RF武道空手道選手権大会 成年男子66kg以下級 予選 準優勝 / 本戦 三位
2015 チャレンジカップ マスターズ 優勝
2016 全日本青年男子73kg以下級 優勝
2017 全日本マスターズ81kg以下級 優勝
2018 全日本マスターズ66kg以下級 準優勝
2019 全日本マスターズ66kg以下級 優勝
2017 PFC 団体戦トーナメント(大将出場) 優勝
その後、2020年まで禅道会の試合では連戦連勝をするまでになった。
「これは小沢先生のドライバーの役得で国内外の支部道場での出張技術講習会にも数多く参加することができたことは本当に幸運でした。しかも、分からないことや教えてほしいことがあれば、ドライバーで小沢先生が身近にいらしたので、長野県高森町の学園まで運転して帰る道中に、技術講習会の内容について『なぜゆっくり蹴っても聞くのですか?丹田を中心とした連動とはなんですか?』などなど質問攻めにしていましたが、小沢先生はお疲れにもかかわらず、真摯に一つ一つしっかりと解説してくだしました。しかし、武道の達人の技は未熟な私にはそんなに簡単には理解できず、『だめだ、これでは…』と何度も呆れられました。しかし、解らないなら何度も繰り返すことしか出来ないので、そこからは知識を学びインプット、自主稽古でのアウトプット、実戦の試合出場の繰り返しです。それを繰り返して3年くらい過ぎたあたりからでしょうか。周りの先輩から『斎藤くん、身体ができきたね』と言われるようになりました。また、一般稽古に参加した際に、立ち組や寝技の際に『すごいパワーですね』と言われ、それなりに丹田や体幹の力はついてきていると感じるようになりました。
斎藤に禅道会に感じる魅力を訊ねた。
「武道の奥深さを感じています。スポーツ競技とは大きく違いますね。私事で言えば、30歳過ぎてから武道を始めるのは相当、遅い方ですが、42歳になった現在、それなりに積み上げられているものを感じています。また、小沢先生の技は年々、完成度が増しています。そのあたりも武道としての禅道会の素晴らしさですね。昨年の12月に大会があり、ワンマッチで出場したのですが、判定負け。それまではずっと全日本大会で海外選手とも試合をしても負け知らずでしたが、どこかで慢心や怠慢があったのでしょう。この負けで、自分の中でまだまだ未熟だし、まだまだ体得すべき伸びしろがあることを体で感じることができたのもいい経験になりました。もっと自分を見つめ直してもっと日々精進していきたいですね。現在、ディヤーナ国際学園でカウンセラーとして子どもたちと関わり、寮で生徒たちと一緒に生活しながら、一人ひとりの人生の選択肢をともに話し合い、一緒に決めています。武道で学べる人間教育のエッセンスを体感的に学べるフリースクール。それがディヤーナ国際学園です。生徒たちと共に自分とはなんだ、人生とはなんだなど、様々なことを探って、学んでいく場です。引きこもり、家庭内暴力、不登校、発達障がい、精神障害など、日本の社会問題解決に武道家が文字通り体当たりでぶつかるという大きな社会貢献だと思います。禅道会の武道教育プログラムが、彼らの心の救いになるのならば、1人でも多くの青少年たちに伝えていきたいですね。一人ひとりが自分の妄想や思い込みではなく、本当の自分自身を見つめ直し、生きる意味や志の様なものを見出す手伝いをしていけたら、とても充実した人生だなと思います。お気軽にお問い合わせ下さい」
https://www.dhyana-jp.com/
長野県下伊那郡高森町山吹5948−1
0265−35−8615(24H対応)
sodan@dhyana-jp.com