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格闘技とウエイト

ラグビー、ワールドカップ!

格闘技ではないが、最近までディアで放映されていたラグビー、ワールドカップ。日本人選手の活躍が素晴らしかった!強豪の外国勢を次々に撃破していく姿は、感動ものである。それにしても…100㎏クラスの体格で試合時間が40分+40分の長丁場。よくぞ、あれだけ俊敏に動けるものである。パワーも瞬発力もスピードも持久力もトータルに兼ね備えたモンスター集団である。もともとの素質に徹底的に、フィジカルを鍛え上げた彼らには、並大抵の武道・格闘家の技なんて通用しないだろうなと思わされた。

自分の知人でアメリカンフットボールを学生時代にやってきて、今はそのフィジカル面でのトレーナーをしている人がいるが、アメリカンフットボールでは、頭からのタックルは無いそうである。しかし、ラグビーは頭から体当たりしていく。「あんなの、まともにくらったら、ひとたまりもありませんよ」と、彼は話していたが、まったくもってその通りである。こちらが打つ、蹴る瞬間に頭からのタックルをいいタイミングでかまされたら、一発で昏倒させられるであろう。中国武術の技で心意把(この字であっていたかな?)という、頭あるいは肩から体当たりする技があり、これは強力な衝撃になると言われている。

中国武術ではないが、大学生の頃、ボクシング部の選手とラグビー部の選手が柔道場でお互いの技比べをしたのを見たことがある。お互い、構えているうちに、ボクサーが左のジャブを放った。その瞬間にラグビー選手がタックルしたら、ボクサーはものの見事に倒されたのである。戦いではないから、大事には至らなかったが、倒されたボクサーをして、「ラグビーって、格闘技だよなぁ」と言っていたことを覚えている。

フィジカルを鍛え上げていた当時の話

前々回の記事で自分は体が細かったと書いたが、空手を学んでいる時もいくら、拳立て伏せを100回こなそうが、四股立ちで人を乗せた状態で一時間近く立つトレーニングをしようが、なかなか、筋骨は逞しくならなかった。身長が170㎝で体重は60㎏もなかったのである。

キック時代はバンタム級で試合をしていたので、筋肥大をする必要性は感じなかったが、引退して、後進の指導に当たるようになってから、「もう少し、逞しくなりたい」と、ウエイトトトレーニングを始めた。それまでもやってはいたものの、筋力は打撃に必要なだけあればいいと考えていたから、そう積極的にはやっていなかったのである。きっかけは、某大学の体育学部で、ウエイトトレーニングを研究専攻としている、教授との出会いだった。その教授に「もう少しバルクアップをしたい」と話したところ、快く指導を引き受けてくれたのである。バーベルやダンベルを用いて、正しいフォームで挙げることを教えられ、一日目は上半身、二日目は下半身という具合に、週一回の休みでこれを毎日のようにトレーニングした。結果、数か月で筋力もそれなりにつき、ベンチプレスは100㎏、スクワットは160㎏まで挙げられるようになった。それなりに真剣にやってきたウエイトトレーニングだが、元々、膂力の強い者はいるのである。自分が努力の末に挙げられるようになったウエイトを準備運動でもするかのように何回も挙げ、自分が挙げていたマックスの二倍以上のウエイトを挙げる、とんでもないつわものがいた。そんなのを見ていると、「これはもう、持って生まれた才能でしかない」と、トレーニングを諦めてしまったのである。ちなみに、ウエイトトレーニングをやって、打撃力が向上しかたと言うと、それなりの効果はあったのだろうが、確実に増した!というまでの実感はなかった。そして、これは少し話が変わるようだが、名古屋で小沢代表のセミナーが行われた際、セミナー終了後に小沢代表が「過去にウエイトトレーニングをやってきたなら、それを活かしたトレーニング効果も望めるのですよ」という話をしてくれた。それはおそらく、脳との関係にあるのだろうが、具体的にどういうことなのかを改めて伺いたいと思っている。

話はまた、戻る。ウエイトトレーニングで打撃力の向上はさほど感じられなかったと書いたが、体格差のある者とスパーをやっても、力負けをしなくなったという自信はついた。体重で20㎏差ぐらいまでなら、打ち合い、蹴り合いはできるようになったのである。むろん、真正面から打撃戦をやるようなことはしなかったが、力負けしない、体格差で怯まないという自信が持てたのは、ウエイトトレーニングの付加価値だったと思う。

圧倒的な体格差を痛感させられた出来事

だがしかし、どれだけウエイトトレーニングをやろうとも、相手との圧倒的な体格差があると何もかも通用しないことをある日、痛感させられた。K1のヘビー級のオランダ人、キックボクサーとマスをやった時のことである。その選手の名はかの有名なピーターアーツ。試合を前にした彼が練習をさせてほしいと、知人の紹介でジムを訊ねてきたのである。そのピーターアーツに、ジムのトレーナー陣が「軽いマスをしてもらえないか」と頼んだ。自分もその一人だったのだが、リングに上がって、向い合った時、あたかも壁が立ちふさがっているかのような感覚を覚えた。なにしろ、身長192㎝、体重110㎏の巨漢である。こんなのを相手に本気でやられたら殺される…そう思った。だから、軽く!と言ったのだが、その軽く打ち、蹴っているはずのパンチや蹴りが重い。十分に手加減してくれているのは分かっているのだが、自分はとにかく正面に立たないようにするだけで精いっぱいだった。それに、こちらのパンチも蹴りも全然、通用しないのである。本気にさせたらとんでもないことになると思い、軽く打つ、蹴る、をしたのだが、相手に当たった感じは大木を前にしているかのような無力感を感じさせられた。マスをやったのは二ラウンド。終わった時はヘトヘトになった。

この時、つくづく思ったものである。どんなに試合巧者であろうが、こんな大男でプロの相手とやったら、通用しないと。当たり前の話だ。だから、格闘技には階級制がある。自分はせいぜい、フェザー級クラス。そんなのがスーパーヘビー級の相手に敵うわけがない。自分を例に出すのは比較にならないが、例えば、武道や武術の達人と呼ばれる人が戦ったとしても、無理!と思った。禁じ手無しで、急所攻撃ありだとしても、相手にならないだろうとも思った。その後、キックミットを持って、ピーターアーツの打撃を受けたところ、それはもう、とんでもない衝撃力だった。それまで自分は何人もの体格のいい人間のミットを持ってきた。その中には、総合系のプロレスラーもいたのだが、ピーターアーツのそれは彼らとは比較にならないぐらいの未知のパンチの重さであり、蹴りの破壊力だったのである。

そんな過去を思い出しながら、今も思う。日本の武道で言われる「柔よく剛を制す」は本当にあるのだろうかと。その言葉を代表する柔道はオリンピックの正式競技になって以来、技の攻防も大きく変わったと、ある柔道家から聞いた。「あんなルールが採用されたら、結局、体の大きい方が有利だ」と言うのである。事実、競技では柔道も格闘技のように階級制になっている。「昔の高専柔道のように、寝技が重視されれば、今の柔道の在り方も大きく変わるのに」と、その柔道家は嘆いていた。立った状態で向い合えば、体の大きい方が有利。しかし、寝技に持ち込めば、体が大きい、小さいは関係ないと言うのである。それを聞いて、なるほど…と思ったものだ。

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