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禅道会 大畑慶高の武道人生②

過酷を極めたレンジャーを目指す訓練

陸上自衛隊レンジャー部隊時代の大畑慶高

若干、二十歳でレンジャーに入隊した大畑。その時の気持ちは、一番厳しいところ、で這い上がるということだったそうだ。レンジャーの訓練は前期と後期に渡り、前期が基礎訓練、後期が行動訓練になる。当時を振り返って、大畑はこう話してくれた。

「この三か月の訓練は本当に厳しかったです。肉体を鍛えぬいて、どんな状況でも冷静に動ける精神力を磨いていくのです。武道も礼儀は重視されますが、この間、私たち候補生の教官への返事は、『レンジャー』だけ。許可が無い限り、YESやNOも他の返事は言えないのです」

基本訓練とはいえ、大畑から聞かされた内容は、過酷という表現に尽きた。朝の5時から夜の24時頃にまでおよび、さらに夜中の非常招集もあったと言う。体力的な訓練も回数ではなく、時間で行われたそうだ。場合によっては、腕立て伏せを二時間、スクワットを30分間という単位でやっていたというから、驚きでしかない。そこで、ギブアップしたら、レンジャーの道は閉ざされる。それでも、大畑は負けなかった。諦めもしなかった。心身共に極限の訓練に身を投じながら、残っている仲間と共に、やり遂げたのである。
最終的に微章授賞式で残ったのは、45名中、大畑を含めて17~18名だけだった。陸上自衛隊のエリート中のエリートである。日本のため、有事の際は命をかけて国と国民を守るには、それだけの精神力と鋼のような体力が求められる。大畑はこの訓練で、「日本を守り、自分を価値のあることをしたい」という当初の思いにアプローチすることができたのだ。

実際の戦闘を想定した訓練で、極限の状態を体験する

大畑の話を聞いているうちに、武道や格闘技の稽古は比較にならないと思った。それを話したら、「レンジャーの訓練は “課せられる”もの。武道の稽古は“自分で決めたことを自分でやる”もの。そういう意味では、後者の方が厳しいですね。自己鍛錬に終わりはありませんから」という返事があった。そう言われてみれば、その通りだ。
しかし、稽古と言っても、「ここまでやった」という自己満足の状態になることもしばしばある。そのあたりの大畑と他の人との意識の分岐点はやはり、レンジャーのハードな訓練があったからこそと思うのだ。その当時の話はまだ、続く。

「一週間、山中を飲まず食わずで100km行軍の訓練をしたことがあります。40㎏の背嚢を背負って、敵の施設を攻める想定訓練ですが、山梨県の山中から静岡県の御殿場まで、富士の樹海を横断するようなルートでした。敵に察知されないよう、足場の悪い道のりを重い背嚢を背負っての訓練です。なおかつ、規定時間に間に合わなければならないという、強行軍でした。食事は一日一回、水も限られた量しかなく、睡眠時間も一日2~3時間。休憩もなく、作戦を遂行するため、仮眠もとれませんでした。強靭な体力のある隊員とはいえ、さすがに疲労します。そこでどうするかと言うと、感覚を鈍くするのです。自分で自分に麻酔を打つような感じです。二日目からは死なないために甞める程度に水を口に含み、気力を振り絞って、一週間の行軍を続けました。終わった後は私の体はまさに骨と皮だけ。60㎏あった体重は45㎏にまで落ちていました」

ちなみに、大畑は今も年に一回、予備自衛官として駐屯地で訓練を行っているほか、朝、一時間半の自稽古も続けている。そして、「天皇陛下から命令が下されば、命を張ってでも日本を守る」と言うのだ。
こう書くと、大畑が強い愛国主義者で、武道で体を鍛えることにだけ意識を持つ男のように思われるかもしれない。しかし、前回の記事にも書いたように、大畑の見た目は柔らかく、優しい雰囲気しか伝わってこない。とても、レンジャーのエキスパートであったことや、禅道会の大会で何度も優勝した人間には見えないのだ。屈強な体ではあるが、殺伐とした風貌は一切、感じないのである。そのあたりは、極限なまでの世界を身をもって体験してきたからこそと思う。

武道や格闘技をやる者は大勢、いる。しかし、それをしているかと言って、その人自身が強くなったとは言えない。単に喧嘩が強いとか、道場内で強いだけでは、本当の強さとは思えないのである。

このあたりは、自分も長年にわたって、打撃格闘技の世界で強さを追い求めてきたから、よく分かる。本当の強さとは、戦う能力が強いだけではない。むろん、愛する人、大切な人を守るための強さは必要だし、持っておくことにこしたことはない。いざという時のために、磨き抜いた日本刀を鞘に収めておくことは、日本男子として必要なことだと思うのである。

だが、真の強さとはそれだけにとどまらない。大畑が最初に言ったように、それは「愛と感謝」、優しさが根底にあることが大切だと思うのだ。なおかつ、自分が大畑に好印象を抱いたのは、ここまで書いてきたことを誇るでも、驕るでもなく、淡々と語る口調だった。「ここまでやり抜いてきた」という気持ちが一切、ないのである。常人では計り知れない体験をくぐり抜いてきたというのに、自慢するようなこともない。ここに大畑という男の揺るぎない自信を垣間見たように思った。そこに惹かれるような思いで取材を続けた。

日本を護る最強の兵士を目指してきたが…

大畑から聞いた話で、こんなこともあった。レンジャーとレンジャー崩れである。それを分けるものはいったい、何なのか。彼の口から語ってもらった。

「一言で言うと、『屈強な精神力を持っているかどうか』です。自衛隊員それぞれの肉体は、そんなに大きな差はありません。それは自衛隊採用時の身体検査でちゃんと、合否を決められるからです。レンジャーの三か月の訓練メニューも決まっていて、過酷な内容ではあっても、みな、公平に課せられるもの。では、そこで何が違うのかと言うと、肉体と精神が限界を上げる中で諦めなかった人たちです。どんなに追い込まれても、苦しくても『やれます!』と答える人たちです。ここが分かれ目ですね。それには、諦めずに自分のマインドを短期間で回復することができる精神力を持っていること、つまり、超回復力を持っていた隊員だけがレンジャーになれるのです」

先に書くことを忘れていたが、少年時代の大畑は決して、丈夫ではなかった。未熟児で生まれ、体も細く、常に孤独感を拭い去れない子どもだったのだ。喧嘩をすることはあっても、負けてばかりいたと言うから、大畑が生まれきっての強靭な体力があったというわけでもない。あくまでも、後天的な訓練で体得したのである。そこには、「国のためなら、我が身を投じる」という気持ちがあったからこそ、熾烈な訓練も乗り越えることができたのであろう。そんなある日、彼は防衛白書を読んでいた。当時のことを苦笑まじりに語ってくれた。

「自衛隊員が国のために命を使うのは、『戦争に行って死ぬことしかない』そう思い続けてきたのです。それはなかなか起きるものではないけれど、いつかは起きる。その時こそ、自分は命を懸けようと思い続けていました。恥ずかしい話ですが、日本は日本国憲法第九条で戦争の放棄があることを初めて知ったのです。小学生でも知っていることを20代半ばで知って、唖然としました。それまで、私が目指していたのは、“日本を護る最強の兵士”でした。それがあったから、どんなに厳しい訓練も乗り越えることができたのですが…」

国のために死ぬ…その気持ちがどれだけ、重いことだろう。しかし、目標を失った大畑の胸中は今までの熱意と決意が霧のごとく、消え失せたのだ。この話は次回へと続く。

禅道会 大畑慶高の武道人生 記事一覧

2020年11月19日発売
「伝説の元レンジャーが教える最強メンタルの鍛え方」

伝説の元レンジャーが教える最強メンタルの鍛え方

禅道会横浜支部長の大畑慶高が本を執筆!
2020年11月19日に出版されます!

発行:白夜書房
四六判 192ページ
定価 1,500円+税
ISBN 9784864942904

陸上自衛隊レンジャー部隊に所属した経験と、禅道会で積み重ねた鍛錬と大会の実績、そして会社経営者としての見地から、昨日の自分より強くなる方法を解説した本です。

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