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空手道禅道会を視る③

空手道禅道会

打撃技、投げ技、関節技の「打・投・極」の総合武道の空手、禅道会。もともと、空手にはそれらの総合技があったと聞く。空手が沖縄から本土に伝わる前の源流とも言えるものなのだが、今日の空手ではそのような技は見られない。自分が知らないだけかもしれないが、少なくとも伝統派の空手の試合でも投げ技、組技があった印象はない。古流空手を学ぶ方からは「それは型の中に技のエッセンスが含まれている」というが、果たしてその型自体が正しく伝わっているのだろうかと個人的に思うのである。ちなみに、自が初めて学んだのは伝統派の空手であった。そこでは、徹底した型稽古が行われていたのだが、これについては別の機会に書くことにする。

禅道会の空手

話を禅道会に戻そう。自分が関心を抱いたのは、総合的な技を駆使する実戦的な側面もさることながら、呼吸法を伴った稽古と抗重力筋を使うという身体操作の部分である。抗重力筋についてもう一度、詳しく書いておこう。普通、走ったりする時は重力に対して逆らう力を使って、走ったり、跳躍したりして、いわゆる筋力を駆使している。それに対して、歩く動作や立っている時、もしくは座っている時に重力をはじめとする様々な拮抗する筋力が抗重力筋になる。
それは通常で言われる違う筋肉という意味ではない。ただ、人は歩いている時や立っている時、座っている時に「筋肉を使っている」という意識はあまり持たないだろう。それを呼吸法と共に意識的に使うことで、技(護身)に活かしていこうというのが禅道会のメソッドなのだ。
そのトレーニング法は前回も書いたように、「寝ての呼吸」、「座っての呼吸」、「立っての呼吸」をだいたい九分から十分。それからストレッチ呼吸で五分。この三つの姿勢での呼吸法を行う。それからストレッチ呼吸で五分。おおよそ、十五分の稽古である。これで、一般の人も十分に護身の能力を高められるということだが、果たして実際にそれが可能なのだろうか。疑問を持った自分は小沢代表に訊ねたことがある。すると、一つのモデルケースとして、ある門下生の話を聞かされた。

仮にその門下生の名前をA氏としておく。彼は三十歳過ぎから武道を始めて、わずか一日十五分の稽古で黒帯になっているが、日夜、別の業務に追われながら、ほとんど道場での稽古もできなかった。にもかかわらず、禅道会で開催する全日本RF武道空手道選手権大会で見事に優勝することができたのである。それだけではない、北海道で行われた団体戦にもチーム禅道会の大将として出場し、ここでも優勝を果たしている。関心を抱いた自分はそのA氏本人に電話をして、詳しい話を聞いた。以下がそれである。
「その時も仕事が多忙で、道場で稽古ができたのは、週に一回だけでした。後は自主トレと十五分の呼吸法とストレッチ。シャドーも軽く汗を流す程度でした」

通常、試合に臨むようなハードな走り込みやスパーは一切、やっていないと言う。ただ、抗重力筋を意識して使うだけを重視してやっていたと本人は語る。
むろん、A氏は素人ではない。れっきとした空手の有段者である。だから、そのベースがあったうえでの上記の短時間稽古法が功を成したのであろう。事実、彼はこんなことも話していた。
「立って戦う時は打撃を中心とした空手、そして組んできたら、それを押さえ込む技術。相手がどう仕掛けてこようが、自分が一番安全なところにポジションを置いて、相手を制しながらの流れが稽古で養われているので、精神的な余裕があるんですね。通常の稽古でも、「こうなったら、こう!」という流れの中での技術が禅道会にはあるで、スタンドでもグラウンドでもスムーズに試合で発揮できるんです」

禅道会 小沢先生

そのような体系化された稽古内容プラス、呼吸法と抗重力筋の使い方である。以前、小沢代表と話した際、短時間の呼吸法と抗重力筋の稽古は護身にも十分に通用するだけの心身を整えることができると聞かされた。しかし、競技力の向上を望むには弱点があると言う。
格闘の競技者として成功するには心肺機能や筋持久力を養成するための稽古量には足らないのだそうだ(当たり前の話だが…)。しかし、競技者がその稽古体系を導入することによって、能力をグレードアップする可能性は非常に高くなってくるとも聞かされた。つまり、プラスアルファの効果が稽古の中で培われてくるのである。
護身における心身の鍛え、整えは世間で言われるフィジカルを鍛えるのとはちょっと違う考え方としてとらえていけばいいのであろう。
小沢代表の話で関心をもったのは、「トップアスリートのような動きは一般の方が真似しようとしてもできません。でも、歩くことは誰にでもできます。なぜ、二本の足で歩けるかというと、それは人間が他の動物より抗重力筋が発達しているからと推測されます。その誰もができる要素をどのように認知を深めていくかの中で、呼吸法で心身が調和されて、ひとまとまりになる。結果、武道における打撃も護身における打撃も、相手に読まれにくい技になり、気配を殺せる打撃になるんです」という部分である。ちなみに小沢代表自身もそれらの修練を通して、座ったままでも相手を倒した出来事があったと言う。
十年程前にフィリピンのバーで飲んでいる時、外国人から銃を突きつけられたことがあったのだそうだ。その時、小沢代表は椅子に座っていたこともあり、下半身は使えなかった。にもかかわらず、とっさに出した掌底で相手のこめかみを打って失神させたと言う。自分も長年にわたって、打撃系格闘技をやってきた人間の一人だが、そのような状況下でなおかつ、座った状態で相手を昏倒させることが凄いと思う。
なおかつ、小沢代表は禅道会とは別に、ディヤーナ国際学園という発達障害など、様々な問題を抱える青少年の学園をも有している。そして時には、刃物を持って襲いかかられるケースもあったそうだ。いくら刃物をもっているとはいえ、そこで相手を傷つけるわけにはいかない。だから、相手に負傷を負わせることなく、制圧するのである。これぞ、まさに究極の護身術と言ってもいいであろう。本来、武道・武術とは襲撃してくる相手を制する技術であった。場合によっては、自らの命、大切な人を守るための術だったのである。古流の武術では、そのような相手を仮想して、対刃物などの攻撃に対する返し技を何度も繰り返して稽古が行われてきた。現在もそのような稽古法を行っている武道・武術も数多いだろう。

空手道禅道会

その一方で、実際に相手と戦う実攻防を主体した武道・武術もある。その実攻防は日頃の練習の成果を発揮する場として、試合や大会が催されるようになった。だがしかし、そこには当然ながら、ルールが発生する。選手の安全性を守るための規制として、当たり前のことだ。ところが、そのルールも細分化されれば、されるほど、実戦からは離れていくことは格闘技や武道を学んでいる人は知っている。同時に、打撃技のみに特化していくと、前述したように「組まれたら、弱い」という事実も出てくる。そういう意味でお世辞でもなんでもなく、禅道会の試合は極めて実戦に近いというのが自分の正直な感想なのである。ちなみに、小沢代表が語る呼吸法と抗重力筋については、「護身の術」として、本が発行されるそうだ。秘伝・秘術として、なかなか公開されない技術が書籍として紹介されるのは個人的に関心大である。発行の日を今から心待ちにしている。

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