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禅道会 大畑慶高の武道人生⑨

武勇伝

武道、格闘技の世界にいる者なら、一度は経験するであろう、ストリートマッチ。要は喧嘩だ。大畑も何度かそれをしているが、その前に書いておきたいことがある。

道場やジムで強いからとはいえ、実戦で通用するかどうかというと、別物である。ゴングや「始め!」の合図で始まるのではない。口論から喧嘩になることもあれば、いきなり、襲撃されることもある。相手が一人とは限らない。ナイフやバット、木刀などの武器を持っている場合もある。だから、ふだんの稽古通りにいくかどうかは本人の精神面、つまり、度胸が大きく関わるのだ。何年も練習してきたからといって、多人数に囲まれた状況を想像してほしい。そこで基本通りの技が活きるかは、ある程度の慣れやメンタルの強さも関わるのだ。

話を大畑に戻そう。喧嘩体験はいくつかあるが、このような話を語ってもらった。

「30歳頃です。三人の仲間と飲みに行って、そのうちの一人が路上の黒服に酔って絡み、喧嘩になったのです。一対一で終わるかと思っていたら、20人ぐらいの男が出てきて、引きずられていきそうになったのです。このままでは危ないと思い、助けに入って、何人か殴り倒しました。すると、一人の男が裸になって、啖呵を切ってきたのです。入れ墨を入れていたので、それで怯ませようという魂胆だったのでしょう。でも、私にしてみれば、『体も細くて、弱そうなのに、何をいきがっているんだ』としか思いませんでした。それで、その男も右フック一発で沈めたのです。この時のパンチは興和警備保障の西村社長に教えていただいた打ち方で、拳のある個所を相手の顎にくらわせるのです。これで殴れば、大抵、一発で決まります」

その殴り方に興味を持ったので、教えてもらったところ、空手をはじめとする打撃系武道のように、拳頭で殴るのではなく、手を握って人差し指と中指の間で殴ると言われた。構えると、相手に分かるので、ノーガードで歩いていって、そのまま殴るのだ。これは効くと言う。まとも当たれば、それこそ、一撃で決まるそうだ。大畑の話は続く。

「その後、喧嘩の場面を見ていた若頭みたいなのが出てきました。そして、『あんたは誰だ?あいつら(大畑が倒した男)は出所したばかりだし、あんたが強いのは分かったから、ここで治めてくれ』と言ってきたのです。それだけならいいのに、さらに凄みながら『どこの会社なんだ?』と言ってきたんですね。脅しで、社名を聞き出そうという魂胆だったのですが、『俺は一人でやっている』と答えたら、それ以上、因縁をつけてはきませんでした。他には、うちの子が幼稚園の頃。家族で買い物に出た時に、コンビニの前で大きな男が一人の男性に喧嘩を仕掛けていたのです。それを見た、家の嫁さんが『あなたが行かないと』と言って(笑)。車を止めて、近づいたら、やくざっぽい大男。それが万引きしたのを店長が見つけて服をつかんだものの、力負けして、引きずられてしまったのです。そこで『おまえ、何をしているんだ!』と声をかけて、瞬時に背後に回って片手で絞めたのです。刃物を持っていることも予想されたので、すかさず、ボディチェックをして『これ以上、暴れると絞め落とすよ』と言ったら、大人しくなりました。そこへ警察が駆けつけて、一件落着。すると、先ほどのコンビニの店長が缶コーヒーを持ってきて、『有り難うございました』と感謝してくれて。帰宅してから、家族三人で『今日の戦利品だね』と笑いながら飲んだことを覚えています」

それ以外に、こんなこともあったそうだ。深夜の二時頃、空手の門下生から「支部長、助けてください」という一本の電話が入った。大畑はジャージを着て、スニーカーを履き、戦闘準備万端で現場に駆け付けた。そこには、やくざが10人ぐらいいて、門下生はコンビニの奥に隠れていた。「出てこい!」と怒号をあげるやくざ。そうなった理由を聞いたところ、門下生がその組の若い男を殴ったと言う。大畑が「それでどうしたいの?」と訊ねたところ、「落とし前をつけさせてもらう。おまえは誰だ?」と問いただしてきたそうだ。大畑は「自分はあの男の空手の指導者で…」と話し、たまたま持っていた禅道会の会報があったので、それを見せた。そこには、著名な政治家と対談しているページがあった。大畑が空手の副理事長だと言うと、相手の態度も少し変わった。しかし、向こうにもメンツがある。「落とし前をつけないと、引くに引けない」と言ってきた。大畑が「いくらなら、納得できる?」と聞いたところ、「一本ほしい」と言う。その一本がなんと、100万円だ。殴ったとはいえ、いくらなんでもそれは高すぎる。大畑は「彼は片親で、そんなお金もない。いっそのこと、山に連れて行ったら…」と言い、「そんなことをしても一文にもならないけど」と付け足して話したそうだ。揉め事の原因を聞いたところ、門下生が黒服の男を殴ったらしい。「確かにそれは、あいつの否がある。100万円は出せないけど、10万円なら出すよ」と提案して、結果的に示談になった。しかし、相手はやくざだ。どう、対処するかも大畑は考えて、行動した。門下生に司法書士がいたので、示談書を作ってもらい、道場に出向いてきた、やくざに「これに署名と捺印をしてくれ」と言った。すると、向こうは「印鑑なんか、持ってねぇ」と答える。このあたり、卑劣なことはいくらでもするやくざである。しかし、それを鵜呑みにする大畑ではない。「それなら、拇印を押してくれ」と迫り、結果的に事は治まった。ちなみに、殴った門下生には、「自給900円で働いてもえれば、それでいいよ」と言ったのだが、その男は二日ぐらいで行方をくらましてしまったらしい。しばらくしてから、やくざになったという噂が流れてきたが、結局、大畑の善意も通じず、身を落とすことになったのだ。いつもは朗らかな大畑が、その話をした時だけ、残念そうな顔をしていた。

他にも、ある会社の社長から「ベンツ5台に囲まれている。助けてくれ」という電話があった。聞けば、キャンピングカーのレンタル業者で、トラブルに巻き込まれたらしい。その時、大畑は長野にいたので、現場の東京まで行けない。そこで、禅道会・小金井支部長の西川氏に依頼したところ、「分かりました。武道家として、行くしかないですね」という潔い返事。もう一人、キックボクシングジムの会長にも電話をしたところ、「ファイトマネーはいくらですか?」と聞かれたそうだ。結局、事態は大きくはならず、レンタル業者の社長から米5㎏が送られてきたらしい。

大畑を見舞った臨死体験

そんな大畑だが、過去に臨死体験もしたらしい。首の後ろに脂肪腫ができて、その摘出手術を行った時のこと。麻酔注射をされた途端、急に汗が出て、脈が急速に低下していったのだ。ドクターが慌てて、「麻酔科を呼べ!」と叫んでいるのを聞きながら、大畑の意識は無くなったと言う。計器の脈が20ぐらいまで落ちているのが、うっすら見えたそうだ。その後、気持ちが良くなり、スーッと上に上がっていくかのような感覚になった。「思い残すこともないから、このまま旅立ってもいいか」と思ったらしい。当時の大畑には、奥さんと幼稚園に通う子どもがいた。「いくらなんでも、早すぎる。もう少し、子どもの傍にいたい」と思ったと同時に、意識が戻り、気持ちが悪くなった。後に、その話を脳外科医に話したところ、「それ、臨死体験ですよ」と言われたのだ。大畑の場合、麻酔が効きやすいのかもしれない。その前に歯医者に行った時も麻酔で気持ちが悪くなり、這うようにして近くの内科に行って、点滴を受けたのだそうだ。

禅道会 大畑慶高の武道人生 記事一覧

2020年11月19日発売
「伝説の元レンジャーが教える最強メンタルの鍛え方」

伝説の元レンジャーが教える最強メンタルの鍛え方

禅道会横浜支部長の大畑慶高が本を執筆!
2020年11月19日に出版されます!

発行:白夜書房
四六判 192ページ
定価 1,500円+税
ISBN 9784864942904

陸上自衛隊レンジャー部隊に所属した経験と、禅道会で積み重ねた鍛錬と大会の実績、そして会社経営者としての見地から、昨日の自分より強くなる方法を解説した本です。

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