今回の記事で、大畑の武道人生はラストになる。ここでもう一度、彼の武道について書きたい。本人は「自分は武道家とは言えない」と言うが、自分はこれほどまで生粋に強くなることへの気持ちを抱いている人間を見たことがないのだ。男なら、誰もが強くなりたいと思う。格闘技や武道をやる人間なら、誰もが共感できるところだろう。さて、大畑の話。彼が入門したのは、まだ禅道会ができる前だった。その前身となる空手道場に行き、名だたる猛者たちの組み手を見て、「これは凄い!」と思ったのだ。大畑自身も柔道をやっていたので、その場で入門を決意した。当時の大畑にはこれといってすることがないし、お酒を飲むこともなかったのと自衛隊の駐屯地の中で外出も規制されていたこともあり、一途に稽古に没頭した。当時のことを振り返りながら、こんなことを話してくれた。
「小沢先生にお会いした際、武道と大脳生理学の話を聞いたことが印象に残っています。そして、強くなる手順として意識と感情と本能的な動作を合わせて、力学に沿って力の伝達を稽古するという話もありました。脳幹(本能)に望ましい構え方、立ち方を学び、大脳新皮質と大脳辺縁系と脳幹の連動についての話をされ、そこから武道の在り方を科学的に語っていただき、『これは面白い』と思ったのです。自分が工学部出身で理系の人間なので、なおさら興味深く話を聞くことができました。武道と言うと、すぐに精神論や単なる根性論が出てきますが、そうではなく理に適った実際的な話が良かったですね。そして、黒帯になった時、小沢先生から心理学の話も聞いて、『無意識にある負のものを自分で整理しないとさらに強くなれない』と言われました。打撃のことはニュートン力学の話も交えて教えていただいたのも良かったです。人間の体は波でできているから、その波を揺らして、打撃でどう揺らして、技を効かせられるかを具体的に教えてもらいました」
小沢代表から、科学的根拠をもって、強くなることを聞かされるにつれ、大畑はさらに「武の道」を深めたいと思った。何度も書くようだが、禅道会は打撃のみならず、投げや関節技もある。自衛隊で訓練に身を挺していた大畑は武器が無く、もしくは武器と連動して戦う白兵戦になった時に使える総合的な武道としての禅道会にはまったのである。彼は続けてこんなことを話してくれた。
「小沢先生の印象は武道研究者でした。武道は青少年の健全育成という理念を掲げていますが、小沢先生はディヤーナ国際学園という、社会不適応な子青少年たちの自立支援を目的とした展開をしています。そこに武道教育を主軸にして、若い子どもたちの育て直しに取り組んでおられる。健全育成を単に精神論にとどめることなく、根拠をもって実践していることか素晴らしいですね。社会が複雑・多様化するにつれ、今の日本社会では心を病む人が増えています。実の親子でさえ、本来の愛情を抱けずに悩み、苦しむケースは少なくありません。だからこそ、武道教育を柱に問題を抱える青少年の再教育に務めていく。私には、それがとても胸に落ちるものがあったのです。富国を子どもたちの育成から築いていく。そういう意味でも、禅道会で学んだことは大きいですね」
空手をはじめとする武道を学ぼうとする人たちの目的は「強くなること」だ。中には選手になりたい、チャンピオンを目指したいという者もいるが、大半がとにかく自分自身が強くなることを目的に入門する。強くなる=実戦性である。ここで技の制限があったら、本当の強さを求めることはできない。必要最低限のルールがあっての実戦力だ。
大畑は自らの体験も踏まえて、こんな話をしてくれた。
「武器を取り上げられて、素手で戦うことになっても強くさえあればいいのです。ボディガードを専門とする興和警備保障の社長で喧嘩2000戦無敗の異名をもつ西村政志社長も素手で強くなければ、武器も活かせないと言われていました。禅道会の小沢先生は武道の新しいシステムを作り、そこに科学的論拠も導入したところが素晴らしいと思います。青少年を武道教育で育成しようという、ディヤーナ国際学園にもそれが活きています。武道で重視される精神を具現化されているんですね。それから、今まで稽古方法が難しかった武道の呼吸法についても、ヨガの呼吸法を取り入れて、より体系的な稽古を展開されています。その探求心が武道家ならでの姿勢だと思うのです。武道は生涯にわたるもの。小沢先生はそれを未だにされているのが素晴らしい。西村社長も70歳を越えてなお、稽古していますし、かく言う自分もそうです。たとえ、後残り、後一か月の余命と言われても稽古はしていきたいと思っています。武器では警棒もやっています。銃の技術も毎年、陸上自衛隊で実弾射撃をおこない錬成しています。射撃の点数が悪い時にはハワイに行って銃の射撃を練習する時もあります。武道とは違いますが、対戦する相手の人生の全てを奪うわけですから、常に冷静でないと実際に引き金を引くことはできません。相手も同じように自分を殺そうと真剣に射撃してくるのでそういう意味でのメンタルの部分は大きいです。ですから、精神トレーニングは毎回、やっています」
続けて、大畑は「ナイフも果物ナイフで対戦できることを考えている」と語った。高校時代からナイフとメリケンサックと警棒は持っていたと言う。一体、どういう高校生活をしていたのか?と思わず、突っ込みたくなる話だったが、ここは敢えて聞かなかった。いずれにしても、大畑は日々、鍛錬を欠かさない。あくまでも実戦に使えること、活かせる技術とそのノウハウを考えているのだ。
「鬼滅の刃、映画で観たのですが、煉獄杏寿郎の『老いることも死ぬことも人間というはかない生き物の美しさだ』という言葉がありましたが、そこに感銘を受けました。生きている限られた時間の中で、どう強く生きていけるか…それは私にとって、永遠のテーマだと思います。禅道会では自然体で合理的な身体操作を稽古でしています。それは通常の筋力を使わない、抗重力筋を使った動きです。ブルースリーの『Don’t think, feel.(考えるな、感じろ)』という名言がありますが、強さへの飽くなき探求はやり続けていきたいです。そこに必要なのが呼吸と姿勢とリズムです。アドレナリンの分泌に効果的な火の呼吸、ドーパミン、セロトニン、オキシトシンを分泌する禅瞑想などは、脳内ホルモンを活性化させます。心や体に効く天然の薬とまで言われていますから、心身共に充実させるためにも、ぜひ、みんなにも行ってほしい呼吸法です」
ちなみに、この呼吸法は自分も行っているが、確かにその効果はある。囚われず、タフな精神力、客観視できる洞察力を得られるようになるのだ。コロナ禍で誰もがストレスにさらされている現代社会だからこそ、この呼吸法を身につけてほしい。その方法は「最強メンタルの鍛え方」に詳しく書かれているので、ぜひ、読んでほしい(ここに本の写真)。本には、大畑が勧める体幹と姿勢を鍛える武道トレーニングも詳しく書いてある。その全てをやっても、それほどの時間を要さないので、免疫力とメンタルタフネスを得るためにぜひ、やってほしいと思う。大畑の話はまだ、続く。
「仕事も武道の精神を使ってやっています。仕事も勝負です。そこに対しても勝利していかなければなりません。武道と同じで、自分の状態を正しく持って、臨んでいく必要があります。収益を上げるには、それだけのテクニックや心理戦も大切になのです。相手を見る、読む。仕事の展開を予測して、行動していく。さらに、軍資金が無ければ、勝負になりません。仕事の戦士として考えるなら、当然、そこに経済力も必要とされます。そういうとらえ方をしていくと、武道との共通項目は多いですよ。また、仕事では脳の緩急も必要なので、そのあたりの勉強にも自己投資は惜しみません。脳波トレーニングの機器も海外から購入しました。脳も筋肉と同じで、鍛えれば強くなるのです」
強くなることにだけ、気持ちを向けていると思われるかもしれない。しかし、自らを強化することは、体だけでなく、脳をも強くする。すると、そこに精神的余裕も生まれる。余裕は他者を思い遣り、気遣う心をも育めるのだ。ちなみに、大畑は綱島小学校PTA会長時代に、日本PTA全国協議会会長表彰を受けている。また、空手を通した青少年健全育成活動で下條村教育委員会から感謝状を贈られている。名誉を求めての結果ではなく、心から、子どもたちの健全育成に貢献したいという気持ちが評価されたものだ。富国を子どもの教育から…という思いがそこにあるのだ。
「私は武道家ではない」と言う大畑だが、様々な武道家を見てきた自分にとっては、彼のその姿は誰よりも武道家らしいと思うのである。強さへの飽くなき探求心、大畑は生涯を通して、それを追い求めているのだ。
禅道会横浜支部長の大畑慶高が本を執筆!
2020年11月19日に出版されます!
発行:白夜書房
四六判 192ページ
定価 1,500円+税
ISBN 9784864942904
陸上自衛隊レンジャー部隊に所属した経験と、禅道会で積み重ねた鍛錬と大会の実績、そして会社経営者としての見地から、昨日の自分より強くなる方法を解説した本です。