今回から月に一回ぐらいの頻度で小沢代表のコメントを書いていきたい。昨今の世相に対する小沢代表の考えや想いである。
最近、胸が痛むような暗いニュースが続いている。
その一つは5月28日に起きた神奈川県川崎市での小学生16人を含む18人が刺された事件。犯人の50代男性も死亡が確認された。この男は長期間働いていなかったという。メディアの報道では、「引きこもり」に近い状態だったらしい。
もう一つは、元エリート官僚の息子殺害事件。 殺された息子は中学時代から母への家庭内暴力が始まり、報道によれば、名門私立中学、高校へと進学したものの、そこで「いじめ」に遭っていた。また、ツイッターへの本人の書き込みによればアスペルガー症候群で18歳から統合失調症と診断されていたらしい。
ご存じのように、小沢代表はディヤーナ国際学園で様々な問題児童を親元から託されている。その背景を通して、今回の一連の事件に対する小沢代表の意見を伺った。
「私たちのディヤーナ学園でお預かりしている子どもたちは基本的に七割から八割が家庭内暴力です。そして、そのままいくと、ご両親が大怪我する、下手をすると命にかかわりかねないケースをたくさん扱ってきました。こうした体験を踏まえて父親が息子を殺した事件や川崎市の通り魔事件を見ると、考えさせられることが数多くあります。ディヤーナ国際学園は公益通信高校のサポート校という立場でもかかわっており、自立支援の学園としては、下は13歳の子どもから上は55歳までの大人を預かっています。その八割近くが基本的には家庭内暴力で、盗癖がある者もいます。こうした発達障害・精神障害の人は年々、増加傾向にあり、そんな中で起きた今回の事件は『うちで預かっていた子どもたちの中でもまかり間違っていれば、そういう事態になっていただろうな』と思われるのです。私たちはそんな子どもたちと豊富な接点を持ってきたので、今回、発生した事件もそんな遠い出来事とは思えませんでした。そして、現場を知る者として、こういう事件はこれから増えていくと危惧しています。ちなみに現在の日本の殺人事件の件数は横ばいですが、親族が関わる殺人事件は全殺人事件の50~60%に及ぶと言われています。それはある意味、恐るべき数字。その背景に、こんな現状があることをお話しましょう。危険性の高い精神的な障害を持つ人はグループホームなどの福祉サービスをなかなか受けることができないのです。他人に危害を加えたり、人のモノを盗む可能性があることを考えられ、周囲を不安にさせてしまうので、福祉の枠組みに入っても、実際には入れてもらえないというケースが出てくるのです。さらに、家庭内暴力の懸念があっても、家に戻されてしまうことも多々あります。通常の福祉施設で受け入れられている子どもたちは障害があっても、従順な子どもたち。ですから、家庭として一番困っている層には、なかなか手が届かないという現状になっているのです」
小沢代表の話では、現在、日本には40歳以上の引きこもりが200万人近くもいると言う。禅道会の本部がある長野県でも福祉が適用できない人が引きこもりになっている中高年が多いそうだ。そして、こんな話も聞かされた。「80・50問題」である。これが何かと言うと、両親が80歳ぐらいで引きこもりになっている子どもが50歳ぐらいになっているというケース。その人たちは他人にも相談できない状態になっているのだ。両親は年金で暮らしていて、せっぱつまっている。当然、子どもの方も50歳にもなれば、未来を悲観している。精神的にも肉体的にも経済的にも厳しい状態である。したがって、「ちょっとした原因から家庭内殺人を招く理由になりやすい」と小沢代表は語る。
「そういうアウトドロップの人たちと向き合う最前線にいた自分たちは、ご両親の苦痛・苦悩も良く分かるのです。これは実際に体験した人間でなければ分からないかもしれません。そして、50歳になった引きこもりの人たちもそうなった過去の自分の出来事を振り返って、憎しみを抱いているケースがあるのです。今回の二つの事件はこの話にあてはまらないかもしれませんが、私としてはそれを表す象徴的な事件にも思えてなりません。そして、これらの一連の事件は氷山の一角で知られないところで多発しているとも思うのです。そういう大変な層に何とか改善できる方法はないかと考えると、応急的には密室化した家庭に他人の風を入れることがとても重要になります。福祉を通り過ぎた後の段階のことなので、すでに福祉サービスの段階は過ぎているんですね。そのために、そういう家庭に助けの手を差し伸べることがまずないのです。それを何とかできないものか、そういう予備軍を作れないかと早急な対策を検討している最中です」
ディヤーナ国際学園に託される子どもたちは家庭が破たんしてしまうケースが多いそうだ。子どもが引きこもりになったりすると、親同士の責任のなすり合いになり、両親が離婚してしまうのである。だからこそ、「そこに援助の手を差し伸べないと、現在のような事件は多発するだろう」と小沢代表は思うのだ。このような場合、両親も年金を受け、本人も障碍者年金を受給しているケースが多いので、それ以上の行政の援助が受けられない。しかし、現実的にこのような問題が起きるので、早急に解決策を考えなければならない必要がある。そしてまた、「巧く機能しない教育や福祉の在り方が現実にそういう問題を起こしてしまっている」と小沢代表は語る。
小沢代表の話は続く。
「救済的には家庭内に新しい風を入れていくことですが、抜本的には幼年期に人格が出来上がるので、幼児教育と母親教育に力を入れなければなりません。ここで一番、重要視しなければならないのは幼児教育で、この問題は本人および家族、そして社会との関係性不全からきています。だから、幼年期のうちに他者との関係性を作る力をつけさせることが大切なのです。その原点は母子の関係からきていて、そのコミュニケーションの円滑さが子どもの自己重要感を育てるのです。さらに『自分も大切で、他者も大切である』という礼の精神を基調とした武道教育にも力を入れていかないと抜本的な解決にはなりません。そのために禅道会では、武道ジーニアスという武道と学習法をミックスしたことを現在、模索している最中です。子どもの発達過程を発達検査表によって子どもの成長を可視化し、それをお母さん方と共有することによって、母子の円滑なサポートも促していきたいと考えています。さらに、問題がすでに発生している家庭には絆募金という募金を募集して、活動の資源としていくことも考えています。原点的には武道教育に工夫を加えれば、このような問題をかなり改善できるというのが私たちの考え。過去に現場で観た家庭内暴力の大変さは一種の地獄でした。子どもが『こんな俺に誰がした!』と、母親を蹴り、負傷させてしまうケースも少なくありませんでした。緊急出動した時には、夜中にお母さんが血を流して倒れているという事態もありました。このような事態を振り返っても、どこかで現在の教育にぼたんのかけ違いがあったと考えざるを得ないのです。そういうことを思う数週間なので、引きこもりの家ではとりあえず、勇気を出して第三者に相談してほしいと思っています」
ちなみに小沢代表の話によると、現在、日本で前向きに働いている人は労働者のわずか6%。国別にみると、137位という低い数字なのである。勤勉な国・日本というものは過去の遺産になっているのだ。だからこそ、原点に戻って考え、「問題を抱える家庭を社会の中の孤島にしない」ことが大切だと小沢代表は語った。