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死を超えた武士道② ― 大畑慶高・山岡鉄舟・山本常朝、三つの魂が交わる場所 ― 後編:強さとは何か、そして伝えるということ

第五章 ― 全日本王者への道、「できないことをひたすらやる」

自衛隊を退いた大畑慶高が向かった先は、禅道会の内弟子という道だった。禅道会は、打撃技(パンチ・キック)だけでなく、投げ技・寝技・関節技・倒れた相手への攻撃まで認める、総合格闘技色の濃い実戦武道だ。大畑はこの武道に、レンジャーで培った戦士の魂をそのまま注ぎ込んだ。

稽古の姿勢について、大畑はこう語っている。「自分ができないことをひたすら、やりました」。陸上自衛隊アルペンレンジャーという過酷な訓練を経てきた男が、さらに「できないこと」を探し続け、弱者の目線に立ち返り、足りないものを積み上げていった。

  • 不滅の戦績:1999年準優勝を経て、翌2000年に全日本初制覇。その後も連続優勝を重ね、通算4度の全日本王者に輝く。
  • 『葉隠』の体現:「何事においても、一度決めたことはどこまでもやり通せ」。勝つためではなく、強くあるために稽古する純粋さが頂点をもたらした。

第六章 ― 横浜に道場を開く、「育てる」という新たな戦場

全日本王者となった大畑は、28歳のときに横浜市へ移転し、総合格闘技空手道禅道会横浜本部道場を設立した。「日本一の兵士になる」ことを使命としていた男が、今度は「日本一の人材を育てる」場を作ったのである。

道場にはインド・中国・韓国・アメリカなど、様々な国の門下生が集う。大畑はそこに「文化交流の架け橋」という役割も見出している。武道がただの格闘技術ではなく、人と人をつなぐ「道」であるという信念が、その光景に込められている。


第七章 ― 山岡鉄舟が示した「文武両道」の深み

大畑慶高が最も尊敬する山岡鉄舟。彼が生涯をかけて追い求めたのは「無刀流」の境地だった。刀を持たずとも相手に勝てる精神の領域。鉄舟は剣・禅・書という三つの道を通じて、一つの真理を探し続けた。

その姿勢は大畑の生き方と重なる。空手(剣)、曹洞宗僧侶としての禅の実践、そして著書(言葉)。大畑もまた、異なる三つの道を通じて一つの強さを追い求めている。

「剣禅一如(拳禅一如)」

体を鍛えることと心を鍛えることは本来分けられない。大畑が空手の稽古をしながら禅を組み、呼吸法を実践するのは、武道空手の精神を日々の生活の中で実践しているからに他ならない。


第八章 ― 僧侶・道慶として、魂の深みへ

法名・道慶として得度を受けた大畑にとって、僧侶としての修行は武道の「奥」にあるものだ。試合で勝つ、その先に何があるのか。その問いへの答えを、彼は禅と仏道の中に探している。

山本常朝も主君の死後に出家し、武士と僧侶という二つの顔を持って生きた。大畑の生き方もまた、戦う技術と、魂を静める修行が、一本の道として繋がっているのである。


第九章 ― 著書に宿る、言葉という武器

2020年、大畑は『伝説の元レンジャーが教える最強メンタルの鍛え方』(白夜書房)を出版した。常朝が晩年に「言葉」で武士道を伝えたように、大畑もまた自らの武道哲学を世に問うた。

「子どもたちが将来、武道の先生になりたいと思えるような社会にしたい」。その言葉の射程は、自分自身の強さをはるかに超え、武道界全体の未来を変えようとしている。


エピローグ ― 三つの魂が交わる場所

山本常朝、山岡鉄舟、大畑慶高。三人をつなぐ言葉。それは「継続」である。

華々しい瞬間ではなく、誰も見ていない朝の稽古、孤独な修行の積み重ね。葉隠は記している。「武士道の修行は一生涯かかるものだ」と。

夜明け前の静かな道場に響く、素足が床を踏む音。その音の中に、300年前の常朝の言葉が、幕末の鉄舟の剣風が、静かに重なり合っている。武士道は形を変え、時代を超え、強さと覚悟を求める魂の中に、今も生き続けている。

― 了 ―

【参考人物略歴】

山本常朝(1659〜1719):佐賀藩士。出家後、田代陣基との対話をもとに武士道の哲学書『葉隠』が生まれた。

山岡鉄舟(1836〜1888):幕末・明治の剣客・政治家。剣・禅・書の三道を極め、無刀流を創始。江戸城無血開城を実現させた。

大畑慶高(1974〜):元陸上自衛隊アルペンレンジャー。禅道会横浜支部長。全日本空手王者4回。曹洞宗僧侶(道慶)。著書『最強メンタルの鍛え方』。

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